裕子の小説置場☆

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……

第679話

7月31

「そしたら裕子ちゃん、まるで、気に入らないおもちゃを手にした子どもみたいに、いきなり放り投げちゃうものだから……うふっ、くっくっくっ……」
――たしかに、どっちにしても放り出してたわ――だって、ペンチの開け閉め、ぜんぜん楽しくないんだもん。

第678話

7月31

「私、裕子ちゃんに、『ここは私が相手をするから、とりあえず、ペンチを開け閉めして遊んでなさい』って、言ったつもりだったの」
大家さんは、人差し指で目尻を拭いながら言った。
――そんなのわからないわよ!

第677話

7月31

「え? ああ、ペンチね。 うふっ、あはははは」
大家さんは思い出したように、笑い出した。
私、なにかおかしなことしたかしら?――

第676話

7月31

「さて、じゃあ、私たちも、ここらへんでお開きにしましょうかね」
大家さんは、私が渡しそこねたペンチを拾い上げると、工具箱にしまい、手に提げた。
「あ、ごめんなさい! うまく渡せなくて……」

第675話

7月31

カオリはこちらを見、かすかに微笑んだ気がした。
カオリの姿が消えた。
私は無意識に、大きく息をついていた。

第674話

7月30

黙ってカオリの背中を見送る大家さん――
大家さんとカオリの家族って、いったい、どういう関係なのかしら?
玄関を出て、左に折れようとするカオリに、私は声を掛けた。
「べ、べつに……使いたかったら、使ってもいいんだからね! 掛け声!」

第673話

7月30

「ほかを当たるわ……」
カオリは短く言い捨てると、アパートの玄関に向かい、早足で歩き出した。
た、たすかった! どうやらこの場は、これで収まりそう。
あいつが去ったら、すぐにリュックサックを洗濯しないと!

第672話

7月29

「ちょうど、この辺りで、ニンニク醤油の匂いが途切れて……そうしたら、たまたま、ショートヘアのあなたがいたものだから……」
カオリは私に視線を移して言った。
「い、いい迷惑だわ! しかも私の掛け声、使わせてあげてるのに」
私は大家さんの腕にしがみつきながら言った。

第671話

7月29

「髪はショート、タヌキ寝入りとポールダンス……、あと、ムーンウォークが得意で、ニンニク醤油の匂いのするリュックを背負った子……なんて、そう珍しくないだろうし……」
そ、そうよ! そんな子、世の中いくらでも町を歩いてるわ!

第670話

7月29

「ふん、あんたの仕事なんか知ったこっちゃない。 さっさとアパートの敷地内から出て行ってくれさえすれば、どうでもいいさ」
いや!――たのむから、こんなあぶない人、野放しにしないで!
いつのまにか私は、大家さんの袖を固く握り締めていた。

第669話

7月29

カオリは大家さんをにらみつけたまま顔をそむけ、手で煙を払った。
「私の仕事は、ターゲットを、すみやかに仕留めること……。 いつまでもここで、時間を潰しているわけには、いかない……」

第668話

7月27

どうやら大家さん、カオリたちの仲間ってわけじゃなさそう――
「あらあなた、母親とちがって、ずいぶん、ものわかりがいいのねぇ。 ま、私はどっちでもいいんだけど」
大家さんは不敵な笑みを浮かべ、カオリに向けて、フーッと煙草の煙を吐き出した。
わー! ちょっと、大家さん! 挑発するようなまねはやめて!

第667話

7月27

カオリが口を開いた。
「まさか、こうもあっさり、あの一撃を止めるとは……。 いったん、ここは刃を納めたほうが、よさそうね……。 もしあなたが、母の言っていた‘あの人’なら……そう簡単には、言うことを聞いてもらえないだろうから……」
そう言い終えると、構えを解き、出刃包丁を袖の中に引っ込めた。

第666話

7月26

ちょっと! やばいじゃない。
もしかしたら大家さんも、さくら姉さんたちと、なにかしら関係あるってこと?
こんな物騒な人たち二人に襲いかかられたら、私――

第665話

7月26

すこし間を置いて、あいかわらず無表情のまま、カオリは答えた。
「……母とは、もう、しばらく……会ってないわ」
ええ!? カオリって、大家さんの知り合いの娘?

第664話

7月26

「元気にしてるの? セツコは」
大家さんはそう言うと、パイプをさする手を止め、ポケットから煙草とマッチを取り出
した。
カオリは構えを崩さない。

第663話

7月26

なにそれ? 大家さんって、ミステリー小説兼時代劇オタクだったの?
大家さんはパイプをつまみ、口から離すと、出刃包丁で受けた傷を確かめるように、さすっている。
カオリは、いまにもニ撃目を繰り出さんとばかりに、身構えたままだ。

第662話

7月25

あー、びっくりした!――大家さん、てっきり斬られたものかと――
「その太刀筋、たしかに覚えがあるわ」
大家さんはパイプをくわえたまま、ニヤリと笑い、言った。

第661話

7月25

カオリは手を引き、後ろに跳ね飛んだ。
「受け……た? 私の斬撃を……」
カオリがつぶやいた。

第660話

7月25

カオリは、下から出刃包丁を振り上げた姿勢のまま、動かない。
パイプ――?
大家さんはくわえたパイプで、出刃包丁を受けて止めていたのだ。

« Older Entries