第1131話

と、長芋の動きが止まった。
膝から前足を下ろすと、耳を立てて窓のほうを見つめている。
なに? どうしたの?

第1130話

長芋は、我慢しきれずに、私の膝にすがりつく。
「どうするの? このまま食べるの? いつも切ってもらったりしてるの?」

第1129話

袋の中からラップに包まれた長芋を取り出す。
私の首から伝わった熱のせいで、少々生温かい。

第1128話

ドアを開け、玄関に落ちていた雑巾を拾い上げると、長芋の足の裏を拭く。

さあ、ごはん、ごはん!
長芋を家に上げ、首にくくりつけていたコンビニ袋を解いた。

第1127話

ギャロップのペースを乱すことなく、ひたすら家路を辿る。
長芋も、ぴったりと横につけている。
あっという間に、自宅に着いた。

第1126話

商店街を離れ、住宅街に入った。
道を照らすのは、家々の窓から漏れる明かりと薄暗い街灯。
これならだれかとすれ違っても、顔を把握されないだろう。

第1125話

「さぁ、長芋! とっととずらかるわよ!」
私がお得意のギャロップで走り出すと、長芋も負けじと追いかけてきた。

第1124話

私はコンビニ袋を振り回す手を止めると、持ち手を首に掛けて結んだ。
これで両手が自由になったわ。
ドッグフードは手に入らなかったけど、今はとっとと家に戻ろう。

第1123話

とにかくこの場から立ち去ったほうがいいわよね。
まったく、あの店員の勘違いのせいで、とんでもないことになったわ。

第1122話

店員は、受話器を置くと、そのまま店の奥へと消えてしまった。
どうしよう、ぜったい私、危険人物だと思われてる!
もしかして、警察にでも電話したの!?

第1121話

私はコンビニ袋を右手に持ち替え、ふたたび頭上で激しく振り回しはじめた。
長芋は、うらめしそうな目でそれを見上げている。

第1120話

ああぁ、左手が――もう、限界――

ゆっくりと頭上から下りてくるコンビニ袋。
長芋が噛み付こうと飛び跳ねる。

第1119話

店員は奥のレジまで駆け込むと、受話器を取り上げ、こちらをチラチラと見ながら、必死の形相で受話器に向って叫んでいる。

第1118話

ちょ、ちょっと、開けなさいよ!
左腕がもう限界なのよ!
私はあわてて右手のひらを広げ、ドアを叩いた。

第1117話

彼女の顔が一瞬こわばったかと思うと、ドアの内側でカチャリと音がした。
え、なに? もしかして鍵を閉められた?――

第1116話

袋を振り回しつづけてきた左手も限界だ。
あとは、よろしく頼むわ、店員さん――

店員はガラス越しに微笑んで会釈すると、ぐるぐると回しつづけている袋に目を移した。

第1115話

よかった――
私はドアの引き手から手を放した。
スルスルとドアは勝手に閉まった。

第1114話

私の呼びかけを押しのけるように、長芋が吠えた。
激しく振られた尾が、私の膝に当たる。
カウンターの店員は顔を上げ、こちらに気づくと小走りでやってきた。

第1113話

スッとドアが開き、店内から軽快なジャズが聞こえてきた。
「あの、す……」
ワン、ワ、ワワン!

第1112話

振り回している袋がガラスドアに当たらぬよう、できるだけ左手を伸ばす。
右手はリードを握ったまま、人差し指と中指を引き手に掛け力を入れた。