第1194話

ためしにこんどは、右手で右耳を引っぱり、左手で鼻をつまんで引いてみた。

パオーン

第1191話

ならば、あいだをとって中腰か。
いや、それでは猿だ。
だが、ためしてみる価値はあるわ。

第1190話

なんてことだ。
人間に戻れば匂いが遠のく。
かといって、犬モードのままでは思考力が低下する。

第1189話

そんなことより、あの嗅ぎ覚えのある匂いだ。
だが、思考回路が人間に戻ったとたん、嗅覚も鈍くなり、匂いはぼやけてしまった。

第1188話

私はマーキングをするため、立ち上がって電柱に向った。
と、二本足で歩いているうちに、犬の世界での縄張りなんて、どうでもよくなった。

第1187話

と、また電柱から尿の匂いが漂ってきた。
まったくどこの犬かしら、ずうずうしい。
このアパートの近辺は、すべて私の縄張りよ!

第1186話

ほかに、これといって目立った匂いもないし――

でも、ひとつ手掛かりがあったわ。
あの、なんとなく覚えのある匂い――

第1185話

遠くから風に乗って、石焼芋の香りが流れてくる。
ああ、おいしそう。
あとで買いに行こう。

第1183話

思考能力が犬並みに低下している今は、自分にとって、その匂いが害をなすモノなのかどうか、その程度の判断しかできなかった。

第1181話

おっと、今は看板跡に残された匂いだけに集中しないと。
私は塀に鼻を近づけ、匂いを探った。

第1180話

もっとも強く匂うのは、近くの電柱から漂う、尿の匂い――
ふん、この程度の実力で縄張りを主張しようなんて、ちゃんちゃらおかしいわ。
あとで私が上書きしておいてやろう。

第1179話

私の思考力は、すでに犬並に低下している。
だが本能で、そこかしこに漂う匂いを分析し始めていた。

第1178話

ふたたび、四つん這いになって、アパートの前の道に出る。
大村崑の看板が剥がされた塀の前まで進み、その跡を見上げた。

第1177話

あ、しまった、このままだとドアノブが回せない。
私は二本脚で立ち、ドアを開けて外に出た。