とりあえず私は、台所で目に付くものを片っ端から詰めてみることにした。
まずは、使い古した洗い物用のスポンジ――
だめだ、柔らかすぎて、やはり小石が詰まってしまう。
とりあえず私は、台所で目に付くものを片っ端から詰めてみることにした。
まずは、使い古した洗い物用のスポンジ――
だめだ、柔らかすぎて、やはり小石が詰まってしまう。
だけど、考えてみたら、隙間があるから小石が詰まるんじゃない?
だから私は考えた。
だったら先に、ナニカ詰めておけば――
ならば、硬ければいいのだろうと、バーベキュー用の鉄串でためしてみたところ、こんどはうまくいった。
そんなわけで一時期、毎週末の数分間を、鉄串で小石をほじくり出す作業にあてていたことがある。
ためしにゴムと小石の隙間に割り箸を差し入れて、ほじくり出そうとしたこともあるが、力を込めると割り箸はパキパキと割れてしまい、この作戦もうまくいかなかった。
しかたがないので、指で小石をほじくり出すのだが、ゴム製のサンダルにがっつりとくわえ込まれた小石は、なかなか取り出せない。
あと、サンダルの裏にいくつもの深い溝があり、砂利道を歩くと小石がつまるのだ。
そのままアスファルトやコンクリート舗装された道を歩くと、カラカラと音がしてうるさい。
ただ、色がね――
茶色はイケてないと思う。
ネーミングからして、アレを連想させるし。
この便所サンダルは中学生のころに買ってから、かれこれ十年近く履きつづけている。
近所に買物に行くくらいなら、この便所サンダルで十分だ。
飽きのこないデザインで、なんといっても丈夫だし。
あ! わたしも食べる!
あわてて部屋に戻って小銭入れをつかむと、便所サンダルを履いてアパートの外へと向かった。
「おっと、焼き芋屋が行っちまう。 ちょうどおやつどきだからな。 こいつを逃す手はないぜ」
男はそう言いながら、後ろ向きのまま、アパート前の通りへと出た。
「なんせオレは、マイケル・ジャクソンと同じ年に生まれたからな」
どうりで!――
「だろ?」
男はニヤリと笑った。
「わらびぃ~もちぃ~」
アパートの前をゆっくりと、わらび餅売りの軽トラックが通り過ぎる。
気がつくと、ドアノブを回し、裸足のまま外へと飛び出していた。
「アナタ! トテモ、ステキデス!」
感動を抑えきれず、なぜだかカタコトで男に呼びかけていた。
男の姿は、すぐに玄関の覗き穴から見えなくなった。
なんてなめらかでエレガントなムーンウォークなの!?
男は滑るように後ろ向きで玄関へと向った。
ムーンウォークだ!
なに? ほかにもだれか来たの?
男は両手でパンツのもものあたりをつまみ、軽く引き上げた。
まさか、その体勢は!
覗き穴から男の様子を伺いながら、ドアノブを回そうとした瞬間――
男はアパートの玄関へと顔を向け、なにかに気付いた様子を見せた。
私は静かにドアノブに手を添えた。
危険は承知だ。
それよりも、白いソックスの意味、そして、刈名谷さんとの関係が知りたい。
男は、ドア一枚挟んだすぐ先に私がいるとも知らず、もう一度呼び鈴に手を伸ばした。
ピンポーン――
そういえば、刈名谷さんも、つんつるてんのスラックスに、真っ白なソックスだった――
たんなる偶然? よね――